安倍さんの遺志は対露制裁全面解除唯一つなり。
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岸田日本国首相は全世界総理大臣安倍さんの遺志に遵(したが)い直ちに対ロ制裁を全面解除せよ。
母なる大海と母なる大地の父なる天に大和魂
なぜ冷徹なプーチンが遺族に弔電を送ったのか…佐藤優「ロシア政界が安倍晋三を尊敬していた本当の理由」
■感情を表さないプーチンが、気持ちをあらわにした弔電
ロシアのプーチン大統領が、安倍晋三元首相の遺族に弔電を送りました。私が翻訳した文面は、以下の通りです。
尊敬する安倍洋子様
尊敬する安倍昭恵様
あなたがたの御子息で、御夫君である安倍晋三氏の御逝去に対して深甚なる弔意を表明いたします。
犯罪者の手によって、日本政府を長期間率いてロ日国家間の善隣関係の発展に多くの業績を残した傑出した政治家の命が奪われました。私は晋三と定期的に接触していました。そこでは安倍氏の素晴らしい個人的ならびに専門家的資質が開花していました。この素晴らしい人物についての記憶は、彼を知る全ての人の心に永遠に残るでしょう。
尊敬の気持ちを込めて ウラジーミル・プーチン
プーチン大統領は、感情を文章にして表すことがまれです。このような弔電を打つことは珍しく、安倍氏に対して抱く心の底からの親愛の情が、率直に表明されていると感じます。
■インテリジェンス機関の元締めからの弔意全文
ニコライ・パトルシェフ安全保障会議書記の弔意も、興味深い内容です。旧KGB(ソ連国家保安委員会)出身のパトルシェフ氏は、国内を担当する秘密警察FSB(連邦保安庁)長官を務めた経歴もあり、現在はロシアのインテリジェンス機関の元締めです。
【RP=東京】ロシア安全保障会議ウェブサイトは8日、安倍晋三元首相死去に関連した、パトルシェフ同会議書記のお悔やみの言葉を掲載した。同書記は、「われわれは彼を、ロシアとの関係の発展のために多くのことを行い、両国民間の相互理解の顕著な改善の実現を心から願い、課された目標の達成のために労力、時間や自身の健康を惜しまなかった、優れた政治家として記憶にとどめるだろう」との見方を示した。
お悔やみの全文は次の通り。
われわれは、安倍晋三元日本首相の早すぎる死去に関連して、深いお悔やみの言葉を述べる。
安倍氏は常に、輝かしく、また権威ある日本の政治家の一人であり、自国や国外において当然の敬意を受けてきた。
われわれは彼を、ロシアとの関係の発展のために多くのことを行い、両国民間の相互理解の顕著な改善の実現を心から願い、課された目標の達成のために労力、時間や自身の健康を惜しまなかった、優れた政治家として記憶にとどめるだろう。
われわれは、安倍氏の近親者や全ての日本国民とともに、この喪失の悲しみを共有している。
ロシアのインテリジェンス・コミュニティーが、安倍氏を高く評価していることかがわかります。
■「安倍氏は反米ではなかったし、親ロシアでもなかった」
ロシアの政府系テレビ「第1チャンネル」の政治討論番組「グレート・ゲーム(ボリシャヤ・イグラー)」も、事件当日のモスクワ時間17:00(日本時間22:45)からの放送で早速報じています。この番組は、本年2月24日にロシアがウクライナに侵攻した後は、クレムリンが諸外国にシグナルを送る機能を果たしています。
国家院(下院)議員で、モロトフ元ソ連外相の孫であるヴャチェスラフ・ニコノフ氏は、こう語りました。
〈今日、安倍晋三・元日本国首相が暗殺された。安倍氏は、日本で最も高名な政治家の1人である。この人物は、日本の歴史で誰よりも長い期間、首相を務めた。またロシアと日本の関係でも、特に経済関係で多くの業績を残した。そして本気で、領土問題の解決に取り組んだ。〉
〈安倍氏は、日本で最も偉大な政治家の1人である。最も偉大だと言ってもいい。過去数十年の日本の歴史で、安倍氏ほど長期間、首相の座にとどまっていた人はいない。彼は日本政治で時代を画した政治家だった。
安倍氏は、日本で最も影響を持つ政治家一族に属している。日本で影響があるのは、第一世代の政治家ではない。安倍氏の父は政権党である自由民主党の幹事長で、外相だった。安倍氏自身も力のある政治家だった。安倍氏は日本では珍しい、自立した政治家だった。
私は首相になる前の安倍氏と会ったことがある。当時、年2回、ロ日間の副次的チャネルでの対話が少なくとも年2回行われており、私もメンバーだった。安倍氏がそれに参加したことがある。
安倍氏は独自の思考をしていた。日本の知識人と政治家は、しばしば米国の立場を自分の見解のように述べる。しかし、安倍氏はそうではなく、自らの理念を持っていた。もちろん安倍氏は反米ではなかったし、親ロシアでもなかった。偉大な政治家として独自の行動をした。
現実としても、ロシアと日本の関係発展のために重要な役割を果たした。プーチン大統領が安倍氏の母親と妻に、感情のこもった哀悼の意を表明したのも偶然ではない。実に偉大な政治家で、日本の歴史に道標を残した。〉
ニコノフ氏は、ゴルバチョフ・ソ連共産党書記長のペレストロイカ政策や、エリツィン・ロシア大統領の改革政策を積極的に支持した知識人ですが、現在はプーチン大統領のウクライナ侵攻を正当化する論陣を張っています。
■「日本は20年間、ロシアの弱さに最大限につけ込もうとした」
次いで発言したのは、モスクワ国際関係大学ユーラシア研究センターのイワン・サフランチューク所長です。
私も、ニコノフさんが述べたことが全面的に正しいと考える。ただし、どのように安倍氏についての記憶が歴史教科書に書かれるかについては、安倍氏によってではなく、これから日本がどのような路線を歩むか次第だ。
私にとって安倍氏は、以下の点で重要だ。日本は長い間、米国によって設定された地政学的状況を受け入れていた。対して、安倍氏は現代世界において、特にアジア太平洋地域において、日本の場所を見いだそうとした。安倍氏は米国との同盟関係を維持しつつ、日本の独立性を確保しようとした。
安倍氏のロシアに対する姿勢は、非常に興味深かった。安倍氏が権力の座に就くまでの20年間、日本はロシアの弱さに最大限につけ込もうとした。この時期、日本は親西側的外交を主導した。この論者はすべての分野で、ロシアの弱点につけ込もうとした。日本は、際限なく提起するクリル諸島(北方領土に対するロシア側の呼称)問題を解決することができず、そのため日本には不満がたまっていた。
安倍氏は、ロシアが強くなることに賭けた。強いロシアと合意し、協力関係を構築する。アジア太平洋地域においてもロシアを強くする。それが日本にとって歓迎すべきことだ。地域的規模であるが、アジア太平洋地域において多極的世界を構築する。ロシアの弱さにつけ込むという賭けではなく、ロシアの力を利用し、強いロシアと日本が共存する正常な関係を構築することだ。これが、安倍が進めようとしていた重要な政策だ。
(2014年に)クリミアがロシアの版図に戻ったとき、日本では再び西側諸国のロシアに対する圧力を背景に、ロシアが日本に対して何らかの譲歩をするのではないかという発想がでてきた。私の考えでは、安倍氏は賢明な政策をとり、西側諸国の単純なゲームが成り立たないことを理解し、ロシアの戦術的弱点につけ込むという選択をしなかった。そして、ロシアと長期的で体系的な関係を構築しようとした。
もちろん現在の日本政府は、別の政策をとっている。国際関係で米国との連携を強め、ロシアとの関係が著しく後退している。日本の主張は力を失っており、制裁でロシアを弱らせるという方向に傾いている。
そのため短期的に、安倍氏の遺産は遠ざけられる。しかし、中長期的展望において、安倍氏が提唱した概念の遺産、すなわち日本が世界の中で独立して生きていかなくてはならず、どのようにアジア太平洋地域の強国との関係を構築し、強いロシアと共生するのかという考え方は、日本の社会とエリートの間で維持される。
いずれかの時点で、日本はこの路線に戻ると私は見ている。なぜなら、それ以外の選択肢がないからだ。
凶弾に倒れた他国の政治家を追悼するという番組の趣旨を差し引いても、非常に冷静で好意的な評価が述べられたと思います。この番組で語られた安倍氏に対する評価は、プーチン大統領を含むロシアの政治エリートの見解と見て、さしつかえないでしょう。
■ロシアと中国が連携して日本に対峙する構造を、阻止しようとしていた
首相在任中、安倍氏はプーチン大統領と27回も日ロ首脳会談を行い、北方領土問題の交渉と、平和条約の締結に向けて努力を重ねました。日米同盟の強化とともに、日米同盟の枠内で日本の独立を確保することを真摯に考え、そのためにロシアとの関係改善を図っていたことは間違いありません。それを読み取ったロシアの政治エリートは、安倍氏を尊敬していました。
岸田政権は、「安倍政権時代の官邸主導の素人外交を止め、外務省主導の専門家による外交を取り戻した」という評価をされる場合があります。これは誤った評価です。安倍官邸の高いレベルの外交についていけなかった一部の外務官僚の不平不満が、表面化したにすぎません。当時の安倍官邸の外交を支えた前国家安全保障局長の北村滋氏はトランプ大統領、プーチン大統領とも会談しており、国際的にも高く評価されていました。
強いロシアと合意して北方領土を取り返すという安倍氏のアプローチにも、説得力がありました。ロシアと中国が連携して日本に対峙(たいじ)する構造が作られることを、安倍氏は阻止しようとしていたのです。
道半ばでの退陣を余儀なくされましたが、北方領土交渉は着実に前進していました。そのことは、プーチン大統領から引き出した発言を振り返ればわかります。たとえば、2016年12月16日の共同記者会見です。
「(安倍)首相の提案を実現していけば、この島は日ロ間の争いの種ではなく、日本とロシアをつなぐ存在となる可能性がある。(中略)首相の提案とは、島での経済活動のための特別な組織をつくり上げ、合意を締結し、協力のメカニズムをつくり、それをベースにして平和条約問題を解決する条件をつくり上げていく。(以下略)」
安倍首相時代の日本外交は、一貫して対話重視であり、どこまでもリアリズムで戦略的でした。アメリカが軍事支援を続けるウクライナでの戦局の行き詰まりが、その真価を浮き彫りにしつつあります。
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作家・元外務省主任分析官
1960年、東京都生まれ。85年同志社大学大学院神学研究科修了。2005年に発表した『国家の罠 外務省のラスプーチンと呼ばれて』(新潮社)で第59回毎日出版文化賞特別賞受賞。『自壊する帝国』(新潮社)で新潮ドキュメント賞、大宅壮一ノンフィクション賞受賞。『獄中記』(岩波書店)、『交渉術』(文藝春秋)など著書多数。
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